徳島県と高知県の県境を流れる野根川。
里山・清流の原風景を残した美しい川で、かつては約100万匹もの鮎が生息し、品評会で全国一になったこともある鮎の名川でした。
ところが、上流の森林の整備不足による産卵環境の悪化、魚道の経年変化などによって、近年では約10万匹に激減。そこで、2016年にNPO法人『ウォーターズ・リバイタルプロジェクト(以下、WRP)』とさとゆめは行政に働きかけ、鮎が遡上する川への再生に着手しました。
この野根川の保全を核とした、隣り合う徳島県海陽町と高知県東洋町、2町の連携による「南四国活性化プロジェクト」をご紹介します。
川を保全し、地域活性化を図るWRP
「子どもの頃から、とにかく川が大好きなんです。時間を見つけては日本中のあらゆる川を巡っていたところ、生物が棲みづらくなっている川の多さを実感。次世代のために1本でも多くの川を保全し、地域活性化を図ろうと思ったのが設立の動機です」と、WRP代表の水谷さん。
ちなみに水谷さんは東京の出身で、大手広告代理店に長年勤めていましたが、定年直前に会社を辞めて起業。そんな水谷さんとさとゆめがタッグを組んだことで、WRPの活動はスピードアップしました。
鮎が遡上する野根川の再生に成功
通し回遊魚の鮎は、秋に河口付近で産卵し、孵化した稚魚は流されて海へ。海中の微生物を食べて冬を過ごし、成長した鮎は春から初夏にかけて川を遡上します。
2016年の冬に遡上の障害となっていた堰堤(えんてい)・魚道を整備したところ、翌2017年の春には、なんと約150万匹もの鮎が遡上しました。
「素人の私たちは大喜びだったのですが、プロジェクトに参加していた学者の先生によると、野根川のキャパシティは80万匹くらいだそうで喜んでくれません。地元の方からも、小ぶりすぎると不評でした」と水谷さん。
改めて自然相手の難しさを痛感したと言いますが、2018年も2019年も順調に鮎は遡上し、数は約80万匹。サイズも大きくなり、昔のように鮎が遡上する川に戻りつつあります。
流域の景観ポイントを整備
野根川の全長は、約28.5km。豊かな森林に囲まれた流域には巨岩や吊り橋、淵など、見どころがたくさんあります。それらを多くの方に楽しんでもらうために「野根川八景」として整備。約14kmのコースをつくり、川の流れを半日で体感できる「野根川リバーウォーク」をスタートさせました。
「「野根川八景」と名付けましたが、野根川流域には美しい景観ポイントが10カ所以上あります。自然に関心のあるメディアの方々に現地取材してPRしてもらったところ、大変好評でした。」
流域がまるごと楽しめる古民家ホテルを開発
さらに、WRPとさとゆめは野根川のファンを増やすべく、古民家ホテルの開発・運営を行う会社を設立。野根川八景の一部に、清流のせせらぎを聞きながら寝泊まりできる古民家ホテルの開業を計画しています。
さとゆめ代表の嶋田さんは「いままでは交付金の申請や環境調査などを主に手伝っていましたが、野根川周辺の地域活性化のために通過型の観光から滞在型の観光への転換を企画しました。さとゆめが行っている山梨県小菅村での経験が活き、小菅村は村まるごとホテルというコンセプト、野根川は流域まるごとホテルができたらいいですね」と言います。
世界初のDMVが運行し、MaaSも導入
WRPとさとゆめが野根川の保全・集客を行っている中、徳島県と高知県では県をあげたプロジェクトが進められています。
海陽町と東洋町を結ぶ阿佐海岸鉄道の阿佐東線に、世界で初めて線路も道路も走れるDMV(デュアル・モード・ビークル)が運行することになりました。
JR牟岐線(むぎせん)の阿波海南駅と阿佐東線の甲浦(かんのうら)駅間は列車として線路を走り、甲浦からはバスとして道路を走ります。平日は甲浦から海の駅「東洋町」へ行き、週末は室戸まで行く計画で、2020年度中の運行を予定。海沿いの景色は素晴らしく、鉄道ファンならずとも楽しみです。
また、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の導入が計画されていますので、予約や支払いを含め、様々な移動がラクになるでしょう。
WRPとさとゆめが展開している「南四国活性化プロジェクト」。今後どのように発展していくか、興味は尽きません。
記事/さとゆめ編集部