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「Binasce 山本 慎弥さん」ビスコッティから広がる、美味しいものの輪

「Binasce 山本 慎弥さん」ビスコッティから広がる、美味しいものの輪

ビスコッティ、というお菓子を知っていますか?

クッキーよりもカリッとしていて、ラスクよりもザクザクの食感。少し固めな食感のイメージがある焼き菓子かもしれませんね。

でも、千葉県にあるビスコッティ専門店Binasce(以下、ビナーシェ)が作るビスコッティは、一味も二味も違います。今まで食べたビスコッティと見た目も美味しさも全然違う!と驚くようなビスコッティなんです。

そんなビスコッティを作る、ビナーシェ店主 山本 慎弥さんに、なぜビスコッティ作りを始めたのか、ビスコッティのこだわり、これからの展望などについてお話を伺いました。

本場のビスコッティはいまいち?イタリアでの出会い

山本さんがビスコッティに出会ったのは、イタリア フィレンツェ。イタリアへは、料理人としてイタリア料理の修業のために訪れていたのだとか。その時、本場のビスコッティに出会い、どのように感じたのでしょうか。

「2003年にイタリア フィレンツェにイタリア料理の修業のために行きました。いろんな料理を覚えていった中の一つが、ビスコッティです。

イタリアの伝統菓子であるビスコッティですが、イタリアで初めて食べた時、正直あまり美味しいと感じませんでした。でも、大したことがないお菓子は100年も伝わらない、と僕は信じています。なので、イタリアにいる間に、いろんなお店を訪ねて買っては食べを繰り返しました。

その中で、一軒のパン屋さんで量り売りしているビスコッティに、これは、と可能性を感じて。通うようになった後、そのお店で働かせていただくことになりました。その時覚えたレシピが今のベースになっています。」

イタリアでは食後のくつろぎの時間を、ヴィンサントという甘口のワインやエスプレッソと共にビスコッティをつまみながら楽しむそうです。食事中の会話を大切にするイタリアならではの楽しみ方ですね。

帰国された山本さんは、ご友人や知人に帰国の挨拶がてら手作りしたビスコッティを渡していたのだとか。

「ビスコッティを渡した相手から、『美味しかったよ!』ってわざわざ後から連絡して伝えてくれたり、『甘いものが苦手な主人が全部食べちゃった』など、嬉しい言葉をたくさんいただきました。老若男女問わずとても反応が良かったんです。

また、自分が作る他の料理やデザートに比べて、美味しさが一つ抜きん出ているなと自分でも思っていました。それで、ビスコッティに可能性を感じたんです。」

震災を転機に、改めて感じたビスコッティ作りへの想い

街にはイタリア料理店を始めとした多種多様な飲食店がひしめく中、「このまま“自分のお店を構える”という目標に突き進んでいいのだろうか。不自由さは感じないだろうか。」と、少しモヤモヤとした気持ちが芽生えていた山本さん。

その時、東日本大震災が起こりました。

「被災地に対して、何もできない自分にショックを受けました。ボランティアに駆けつけたいけど、すぐ休めるかというと現実的ではなく、多くの義援金を送れるかというとそれも難しい…。

また、もし5年後、10年後に同様のことがあった時にできるかというと、今のままでは変わらない気がすると思いました。」

以前から抱えていたモヤモヤとした想いが、震災を機にさらに形を持って現れ出した時、それがビスコッティ作りとうまくリンク。かねてより可能性を感じていたビスコッティで、起業してみようと決意されました。

「一人の料理人が世の中に対して美味しさで勝負できる食べ物って、そんなに多くないと思うんです。一つでも他には絶対負けないというものができたら、すごく素晴らしいですし、大事にするべき。自分にとってビスコッティは、そういう存在になるんじゃないかと思いました。」

震災を機に歩むことを決めた、ビスコッティ作りの道。山本さんが作るビスコッティには、美味しさだけでなく、その誠実でまっすぐな気持ちも込められているように感じます。

妥協しない美味しさは素材選びから

ビナーシェのビスコッティは、こだわり抜いた素材で作られています。山本さん自らが探し出してきたこだわりの素材は、どのような基準で選ばれているのでしょうか。

「僕は国内産や無農薬を前提に探すのではなく、美味しいもの、質が良いものというフィルターで素材を探しています。でも、美味しい素材を追い求めていくと、自然と国内産であったり、出自もしっかりしたものに行き着くことが多いです。」

あくまで、「美味しいもの」という基準で素材を選ぶ。その視点だからこそ、ビナーシェのビスコッティは、他と違う、はっとする美味しさがあるのかもしれませんね。

お菓子作りにとって一番大切な粉には、特にこだわりが詰まっています

砂糖の分量を2gだけ変えたりなど、常にマイナーチェンジを繰り返しながら、美味しさを追求しているビナーシェのビスコッティ。多種多様なフレーバーも魅力的です。

「ビスコッティに合わせる素材はなんでも合うわけではないんです。ビスコッティは、しっかり焼き上げるのが特徴の焼き菓子です。例えば、ドライフルーツは焦げてしまったり、飴状になってイマイチな食感になってしまうものも多いです。また、入れたとしても味がわからなくなってしまうものもあります。」

現在、ビナーシェのビスコッティは全部で12種類。定番のアーモンドや人気のアールグレイにコーヒー&カシス、カカオ&ブルーベリーなど、それぞれ個性的で豊かな味わいです。また、おつまみにもぴったりなパルミジャーノやプレーンも。大人も子どもも、みんなで楽しめるお菓子です。

その中でも、「千葉県産ピーナッツ」フレーバーは、千葉県成田市で40年以上無農薬で栽培されている落花生を使用。その奥深い香りと味わいは、ビスコッティ生地と相まって、唯一無二の美味しさを誇ります。

また、新たに登場した小さめの袋での詰め合わせも人気だそうですよ。職場や友人との集まりなどで配ったり、また食べ比べにもぴったり。カラフルなパッケージもおしゃれで、手土産にもおすすめです。

選ぶのも楽しいパッケージは、人が集まる時にぴったり

さとゆめとの米粉ビスコッティ開発

2014年にビナーシェを立ち上げ、千葉県で誠実にビスコッティ作りを続けている、山本さん。プライベートで偶然に出会った、さとゆめ 嶋田さんとの繋がりから、さとゆめの案件にも携わっていくこととなります。

「さとゆめさんとの初めての取り組みは、福島県広野町にあるNPO法人広野わいわいプロジェクトとの商品開発でした。広野町の産品を作ろう、と会議を重ねて一緒に作り上げていきました。

地域の人に、広野町の特産品はなんですか?と聞くと、お米が最初に出てきたんですね。それでは米粉のビスコッティを作りましょう、と開発を始めました。」

グルテンフリーなど、米粉への注目が年々高まっている今、山本さん自身もちょうど米粉のビスコッティを開発したいと思っていたそう。でも、米粉のビスコッティ作りには、小麦にはない米粉ならではの難しさがありました。

「米粉は小麦粉に比べて、なかなか固まりません。だから、米粉のクッキーはホロホロとした食感のものが多いんですけど、それではビスコッティではないです。

米粉の状態を見ながら、バターや卵の量を調整して作っています。米粉のビスコッティを作るのは、今だに難しいんです。」

フレーバーは、アーモンドの他、広野町の産品であるえごまと、黒ごまきな粉も

日本人に身近な“米”を使ったビスコッティ。これぞ、日本のビスコッティという存在にもなりそうですね。山本さんが作る米粉のビスコッティは、これからも常にアップデートを続けながら、さらに美味しくなることでしょう。

「この広野町の米粉のビスコッティの最終的なゴールは、地域の皆さんや施設など地域に根付いた作り手に技術を教え、広野町内で生産できるようになることです。」

ビスコッティを軸に。広がる美味しいもの作り

ビスコッティ作りを軸に、様々な地域の取り組みに携わっている山本さんが考える、これから目指していきたいこととは。

「本当に美味しいものって、まだまだ多くないと思います。それはひとえに、美味しいものの作り方のポイントがわからないから。そういうポイントと技術をシェアすることで、美味しいものが世の中にいっぱい増えるといいなと思っています。

僕もさとゆめさんが掲げる理念と一緒で、伴走しながらフードコンサルティング、ディレクションをしていきたいと考えています。最後まで美味しいものを作るために関わりたい、という気持ちです。

美味しいものを作るのは、簡単ではありません。だから、技術のある人が教えていくことが大切だと思います。」

熊本県宇土市のふるさと納税の返礼品として、市と共に開発したジェラート

美味しいものができるまで、最後まで一緒に伴走する。山本さんのその想いが込められた美味しいものが、もっともっと日本全国に広まっていくことが楽しみです。

ビスコッティを軸に、日本全国の地域で美味しいものを作り出していく山本さんのこれからに注目です!

   

イタリア伝統焼き菓子 ビスコッティ専門店Binasce HP:https://www.binasce.com/

記事/さとゆめ編集部