「世界農業遺産」をご存知ですか?
歴史的な建造物や自然環境などが認定される「世界遺産」と似ていますが、その名の通り農林水産業に関する世界的な認定制度です。
農林水産業は、いつの時代も人々が暮らし、命を育んでいくために欠かせないもの。これからの世界的な人口増加やグローバル化が加速する未来において、改めて重要視されていく産業の一つかもしれませんね。
また、長い農林水産業の歴史の中で、世界の地域ごと、そしてその国の中での地域ごとなど、環境や文化に合わせて様々な伝統的な技術・方法が出来上がりました。そうした、地域文化としても大切にされてきたものを、次世代へ受け継ぎ、保存していくために、世界農業遺産は存在します。
世界で認められた日本の農業
世界農業遺産は、世界的に重要かつ伝統的な農林水産業を行っている地域(農林水産業システム)を、FAO(国際連合食糧農業機関)が認定する制度です。
世界農業遺産は、アジア、ヨーロッパ、アフリカを始め、世界21ヶ国57地域の認定地域があります(平成30年12月時点)。このうち、日本の認定地域は11地域。アジア地域の登録地域のおよそ3分の1を占めています(カッコ内は認定年月)。
・ 石川県能登地域(平成23年6月)
・ 新潟県佐渡市(平成23年6月)
・ 静岡県掛川周辺地域(平成25年5月)
・ 大分県国東半島宇佐地域(平成25年5月)
・ 熊本県阿蘇地域(平成25年5月)
・ 岐阜県長良川上中流域(平成27年12月)
・ 和歌山県みなべ・田辺地域(平成27年12月)
・ 宮崎県高千穂郷・椎葉山地域(平成27年12月)
・ 宮城県大崎地域(平成29年11月)
・ 静岡県わさび栽培地域(平成30年3月)
・ 徳島県にし阿波地域(平成30年3月)
阿蘇の草原
長良川の鵜飼
そのうち、宮崎県の高千穂郷・椎葉山地域は、森林に囲まれ平地が極めて少ない環境下での、木材生産やしいたけ栽培、和牛の肥育、棚田、焼畑などの農林業・畜産業の複合的な経営、そして、それを支える神楽などの伝統文化や地域のコミュニティ活動が、世界農業遺産として認められました。
さとゆめは、縄文時代から受け継がれてきた循環型農法「焼畑農業」を次世代へ受けつぐために作成された、椎葉焼畑の普及啓発冊子「椎葉の焼畑〜未来へつなぐ、森と人々のものがたり」と、マニュアル「椎葉の焼畑 手順書〜森を守り、未来へつなぐ循環型農法「焼畑」の全て〜」の制作のお手伝いをしました。
焼畑農法がどういった農法であるかということはもちろん、焼畑の歴史や火入れ前の準備から森の再生までの細かな手順、焼畑の担い手たちへのインタビューなど、”椎葉の焼畑”についてたっぷり詰め込まれた2つの冊子。読み終わる頃には焼畑の魅力をじっくりと感じることができます。
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先人の知恵を未来へ受け継ぐ、世界が認めた伝統農法「椎葉村 焼畑農法」
世界農業遺産の認定基準
世界農業遺産の認定は、FAOが定めた5つのに基準によって評価されます。
1.食料および生計の保障
地域コミュニティの食料および生計の保障に貢献するかどうか。
2.農業生物多様性
食料および農業にとって世界的に重要な生物多様性が豊富であるかどうか。
3.地域の伝統的な知識システム
地域が「地域の貴重で伝統的な知識および慣習」、「独創的な技術」および「生物・土地・水等の農林水産業を支える天然資源の管理システム」を維持しているかどうか。
4.文化、価値観および社会組織
農林水産業システムの関連した文化的アイデンティティおよび風土が、地域に定着し、帰属しているかどうか。
5.ランドスケープおよびシースケープの特徴
人類と環境との相互作用を通じ、長い年月をかけて発展してきたランドスケープまたはシースケープを有しているかどうか。
静岡の茶畑
FAOの世界農業遺産は、地域の農業・地域システムを環境の変化に適応しながら保全し、次世代に継承していく事を目的としています。
日本の国土は南北に長く、そして山地が多いことから、それぞれの地域ごとにその土地に合った独特の農業が営まれてきました。
しかし、時代の変化や高齢化、後継者不足などにより、廃れてしまう伝統農業も。人々の暮らしを支えてきた大切な農業文化を守り、次世代へと受け継いでいく…この世界農業遺産という取り組みがこれからもより多くの地域へと広がっていくことを願います。
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記事/さとゆめ編集部